プロフィール

インタビュー

インタビュー月刊『ぶらあぼ』2004年5月号より

アジアの誇り。異文化を深く理解し合って平和へ。

日本での中国音楽普及の基礎を作った二胡名人の許可(シュイ・クゥ)さんは、1990年から97年まで日本で演奏活動し(その間BMGより10枚のCDをリリース)、その後6年間アメリカ(ニューオリンズ/ニューヨーク)で活躍した。

今年からまた日本に活動の本拠地を移し、日中米の三カ国を行き来する多忙な活動を続けるスーパー二胡奏者に抱負を聞いてみた。

使命感――二胡を世界の楽器に
「二胡を世界の音楽に通用する楽器として認めてもらえる時代をつくるのが私の使命だと思っています。ローカルな楽器ではなく、世界の音楽を表現できる風格を持った楽器として認識されるように。

音楽は、民族の言葉。楽器はそれを話す声のようなもの。どんな民族でも声を出す喉や舌にはそんなに違いはありません。その声で何語を喋るか、何語で歌うか、どれだけきれいに話すか…その上にどれだけ普遍性を持たせられるか。それが大切だと思います。

民族楽器の中には個性の非常に強い楽器がありますが、幸い二胡はそれほどでもないのです。中国語しか喋れない楽器ではないということです。民族楽器に対する世間の先入観を越えなくてはいけません。たとえば西洋音楽といってもクラシックに限らず、二胡でジプシー音楽を違和感なく演奏したら、聴いていて楽しいのではないでしょうか。

二胡で西洋の音楽をやるべきか否か…という議論はいまだにあります。洋楽をうまく演奏できない場合は楽器の特性のせいにして、いわゆる言い訳をする演奏家も多いのですが、僕の演奏によって、最近中国でもそういう議論は終わりつつあります。

北京の中央音楽学院では民族音楽学部でないクラシックの先生方も、僕の演奏を聴いて納得しているからです。僕の演奏は西洋の音楽をしっかり学んでそのスタイルを身につけているから違和感がないでしょう。中国のものを演奏するときには完全に中国語で喋っている…そのようにすべての音楽の風格を身につけていれば楽器の種類は関係ありません」

ジャズ・スピリッツに学ぶ
「ニューオリンズではジャズを学びました。ジャズをそのまま二胡で演奏しようとしたのではなく、ジャズの精神を学んだのです。ジャズの自在さ自由さを、二胡の演奏にどのようにとり入れることができるかということ。その精神は実はジャズでなくても、どんな音楽にもあります。ひとつの精神に立ってその上で、自在な表現やあそびができる。ある決まり事に影響を受けながらも、その上で出来るだけ自由に演奏しようとする。それこそジャズの精神です」

自在性~変わるものと変わらないものを同時に表現する
―――決まり事があって、その上で出来るだけ自在な表現を試みる。「伝統と現在」という問題にも同じことがいえますね。

「そのとおり。中国音楽でもそういうあそびの精神はあります。ガチガチに伝統に凝り固まったものは面白くない。いのちある音楽はダイナミックに躍動し、同じことは繰りかえさない。つまりそれが自在さでしょうか。今はまさに、中国の伝統を背負いながら、世界各地の音楽の風格で二胡を演奏する、そしてどんな楽器とでもセッションできる時代なのです。今回の演奏会もそういうところを表現していきたい」

アジアの誇り、大きな夢
―――日本に拠点を戻されたのですね…

「アジアには欧米に負けないような音楽の素材があります。埋もれている良いものも多い。そういうものを掘り出して、日本から世界に紹介していきたい。一般に欧米人のアジア観、東洋観はとても表面的で浅いところで留まっています。深く理解を示すのはごく一部の人だけ。その点日本では、大陸のアジア文化をより深く理解しようとする人が増えてきました。そこで、まず日本で受け入れられた中国の新しい伝統や、僕が日本で生み出したものをここから世界に発信したいのです。

中国文化の深さ、二胡の可能性について説得力を持たせるためには、コンサートのプログラムは熟慮します。中国の伝統や二胡の現在をより深く心で感じ取っていただけるように工夫してプログラミングをします。

西洋の文化がアジアにこれだけ広がっているのは、東洋が西洋の文化を深く理解しようと努力してきたからです。私たちはアジア人としての誇りを持つべきで、自分たちの文化をより深く、西洋人にも感じてもらえる努力をしていきたい。そのためには僕の演奏だけでなく様々な本物の音楽を紹介していきたい。国際都市東京、世界が認める国日本で成功したワールド・ミュージックが、世界に普遍的なものになるという夢。簡単ではありませんが、一所懸命やっていれば、応援してくれる人も増えていくのではないでしょうか」

平和への貢献
「僕たちの仕事は異文化のあいだに橋をかける仕事。だからこそ本物を提供することが大切ですね。民族の芸術によって異文化を持つ人々が深く理解し合えたら、どんなに自国の利益のためとはいえ、戦争を仕掛けることなどしなくなるでしょう。異文化の理解や融合が世界の平和につながっていく。今はパソコンの時代ですが、英語の文化だけを理解したからといって、それが真の国際化とは言えません。本物の民族文化の交流による世界平和への貢献……これが一番大きな目標です」

(聞き手/文責:三森一樹)

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